2009年09月04日
●シリーズ「結婚前夜」 【6】 チェンジ!Y田華麗なる転身、新政権手中に
夏でも猛威を振るう「感染婚」。うがいも手洗いもせず、あっさりウイルスに侵され7月に入籍したY田は、正式に結婚派の一員となった。しかし、式も挙げていない新入りはどうせ冷遇されるに違いない。そんな遠吠えで独身派が虚勢をはる中、Y田が新たな事実を告げた。
Y 「1月に結婚式するけん」
独 「・・・ッ!」
独身派最高幹部だった男が結婚式を挙げる。まさに「チェンジ」だ。これほど象徴的なことはなく、Y田の華麗すぎる転身に結婚派が揺れている。
3対3だった同期勢力の均衡を破り、政権交代を実現させたのは確かにY田だ。派閥歴は浅いが、その功績を考えれば結婚派の舵取り役を任されても不思議ではない。事実、派閥内でY田の手腕を期待する声も上がっているそうだ。「冷遇されればいい」という独身派の浅はかな望みは、どうやら叶いそうもない。
ふと、恐ろしい考えが独身派の脳裏をよぎった。「最初からすべて計画していたのでは―」。つまり、「周りがしてるから」という感染婚は見せかけで、独身派の分が悪くなり始めたころから、新政権となる結婚派代表のポストを舌なめずりして待っていたのではないか。偽装感染婚で目をくらませ、ガードを甘くした結婚派にするりと入り込み、政権交代の風に乗って代表の座をかすめ取る。完璧だ。
残された独身派はそんな策略に気づくこともなく、ただ安逸をむさぼっていた。一寸先は闇とも知らず。
Y 「結婚式の後、寿休暇とって新婚旅行いくけん、その間は僕の分も仕事頼むよ」
すでに外遊スケジュールも抑えている。 ヤダー(`ε´)
2009年08月04日
●お寺でアート
徳島を拠点に和紙を使った創作をしている現代美術家の楡木令子(にれきれいこ)さんが、鳴門市のお寺を舞台にインスタレーションを展示している。タイトルは「紙のあかり展」。竹と和紙で作った恐竜の卵のような造形作品50点以上が、東林院本堂の一面に並ぶ。「卵」は中から明かりが灯され、幻想的な雰囲気が広がる。
「心が疲れたとき、人間は非日常の時間と空間を求め、遊びや芸術、宗教といったものを作り出してきたのではないでしょうか。今回の展示は、我々の心の内に在る慈悲に溢れた仏心のように思うのです」と副住職。
非日常的な空間に足を踏み入れたくなり、お寺を訪ねた。



2009年06月26日
●シリーズ「結婚前夜」 【5】 Y田結婚へ、WHO「パンデミック」宣言
結婚秒読み疑惑を否定し続けてきた元独身派最高幹部のY田(28)は25日、来週にもTさんと入籍する、と発表した。二人は大学時代の同級生で、昨夏以降に交際をスタート。旧知の仲とあってか、交際1年足らずのスピード婚となる。
これで同期6人は結婚派4、独身派2の構図となることが避けられない見通しとなり、WHO(World Hitori Organization・世界独身機構)は同日、友人の結婚に刺激され入籍する「感染婚」の警戒レベルを最高のフェーズ6に引き上げ、パンデミックを宣言した。感染婚が爆発的に拡大しており、独身派に警戒を強めるよう求めている。
また、Y田は入籍予定を所属部長に報告しただけで、決断するに至った経緯など詳しい背景を明らかにしておらず、独身派特捜部は近く任意で取り調べを始めるもよう。独身派幹部は「何の説明もなかった」と猛反発している。
2009年01月13日
●シリーズ「結婚前夜」 【4】 止まらないY田の裏切り
自らの辞任で派閥抗争に終止符を打った独身派の元最高指導者Y田。派閥内に横たわった溝は底が見えず、もはや再起は不能だ。その空中分解した古巣に、Y田はさらに追い打ちをかける。
寒風吹きすさぶ昨年暮れ、A木主催の忘年会が開かれた。顔を並べたのは同期5人。Y田と僕を除く3人は結婚派で、独身派若手のM家は傷心を癒す旅に出たという。会の冒頭から注目を集めたのは、Y田の身の振り方。独身派を離れたものの結婚派でもなく、宙ぶらりんな状態だったからだ。
これまでの言動から、Y田が結婚派入りを望んでいるのは明らか。ただ、その資格があるのか。結婚派の理事たちは料理もそこそこに、冷静な表情でY田を見詰めている。張りつめた空気。引き裂くように、Y田が口火を切った。
「Tさんが3月末で教員を辞め、地元徳島に帰ってきます」。差し出した“ブツ”は上等だった。
アメリカ発の金融危機が日本の実態経済にも及び、雇用不安が列島を覆ういま、Tさんは小学校教員というステータスに未練がないというのだ。当然、その見返りはY田との結婚だろう。Y田によると、2人の関係はTさんの両親も公認というから、現実味を帯びる。僕は動揺した様子を見せずに、質問を浴びせた。「い、い、いつするん?」
Y 「はぁ、何が?え、ケコン?僕はTさんが先生を辞めるって言よるだけですよ」
決して直球は投げない。逃げ道を用意しておくのが大人の会話なのか。しかし、頭の良い理事たちは発言の真の意味をすぐ理解し、相好を崩した。「式場予約は早いことせんと、予定通りいかんよ。俺は結局1年もずれたからね」などとアドバイス。Y田の派閥入りを事実上認めた格好だ。
ここまでY田がTさんとの愛をはぐくみ、結婚派への根回しをしていたとは知る由もなかった。呆然としていると、派閥入りの承認を得て気をよくしたY田が畳みかけた。
Y 「ほな、アッキー支払い頼むわ。結婚資金や貯めんでもええんだろ(ニヤリ」
つづく
2009年01月02日
●シリーズ「結婚前夜」 【3】 独身派の没落
大規模和風邸宅を使った結婚式場「樫野(かしの)倶楽部」。邸宅は大正14年に阿南市内で建てられた木造2階建てで、10年ほど前に徳島空港近くに移築された。波打ちガラスや模様ガラスといった大正ロマン漂う建材が使われ、国の有形文化財にも登録されている。そんな気品ある式場で、A木は親族や友人らが見守る中、愛を誓った。
美しい日本庭園で式を挙げた後、大広間で披露宴。同期5人が一つのテーブルを囲んだ。5人とは、A木よりも一足早く入籍したN野(♀)、婚約が暴かれたK辺(♂)、独身派若手のM家(♂)、仮面を脱いだY田(♂)、と僕(♂)。これまでなら、独身派3、結婚派2と独身派が優位で、結婚派のA木を加えたとしても互角に渡り合うことができていた。
しかし、である。
Y田だ。独身派が斜陽に立たされたと感じるや否や、旧友のTさんに忍び寄り、あっさり派閥に見切りを付けた。式場に向かう車中でも、「そろそろ落ち着かんと」などと失言が飛び出す始末。これは造反というより、彼の指導者的立場からすれば背任といっても過言ではない。
「Y田の暴走を告発しよう」。そう心に決めていた僕は、5人が囲む円卓にTさんの話題を載せた。Y田は公式の席でも容疑を認め、事も無げに派閥トップを退く意向を示した。寝耳に水だったM家の手から、ナイフが滑り落ちた。
「ガシャーン」
トップの政権投げ出し。最高指導者を最悪の形で失った独身派は、音を立てて瓦解した。
つづく
2008年12月07日
●シリーズ「結婚前夜」 【2】 仮面を脱ぐY田
会社の同期6人のうち、先陣を切って婚約発表したのはA木だった。それは、ちょうど1年前の冬。独身の自由や裕福さより、やすらぎに包まれた家庭を―。A木の決断は、寒い夜空を照らす温かい知らせとして、多くの仲間の胸に響いた。しかし、Y田(27)は違った。
「は?ケコン?ショーモナッ!」。そう吐き捨て、「家庭」や「やすらぎ」といった言葉を強く否定した。耳障りの良い言葉に心を揺さぶられる仲間たちを奮い立たせ、独身派のトップに躍り出た瞬間だった。
そんな派閥最右翼のY田が、裏切り劇を演じている。旧交を温めていただけのはずだった、大学時代の友人で女性教員のTさんと、頻繁に接触していることが明らかになった。耳を疑うような話だが、事の経緯はこうだ。
2人の関係が友人付き合いの範囲を超えているのではないか、そんな指摘が関係者から出始めたのは、蒸し暑い夏。突然デジカメを買ったり、県外に遊びに行く回数が増えたりと、浮かれぶりが目立つようになっていた。僕の職場に2人で押しかけて来たこともあった。その際、2人で撮った写真がデジカメに収められているのを見逃さなかった。
写真の事実を突きつけ、「つき合っているのか」とただしても、Y田は「まさか、そんなはずが。トモダチトモダチ」と火消しに躍起で、交際関係を認めようとしない。一方、派閥の会員たちは「自分の目と耳で確かめるまでは」と、Y田の言葉を信じた。
ところが11月上旬。信頼はあっさりと裏切られる。徳島空港の近くであったA木の結婚式。車で会場に向かう途中、Y田をピックアップすると、疑惑の女性Tさんも一緒に後部座席に滑り込んできた。行き先は空港方面だというのに、Y田は「徳島駅に寄ってよ」。Tさんを送り届けるから、と続けた。同時に、交際の事実も認めた。昨夜は社宅に泊まっていたという。
かつて派閥に「鉄の規律」を敷き、死ね死ね団の指揮棒を振ったY田。あの寒空の下で、会員たちの心を掴んだ勇姿はどこへ行ったのか。仮面を脱いだ披露宴で、不協和音が鳴る。
つづく
2008年10月05日
●山里でスウィングする秋の夜長
標高約700メートルの山里で、プロのジャズライブがあった。徳島県三好市東祖谷(いや)にある武家屋敷が会場。ヴィブラフォン、ピアノ、ベースのトリオがビーバップやルパン三世など10数曲を演奏した。途中、サックスも2曲ほど競演した。
屋敷の中はかなり広い。天井がないため、開放感たっぷり。かやぶきの屋根裏が独特の雰囲気を醸し出している。囲炉裏(いろり)端に腰をおろし、おいしい料理をいただく。客席の明かりが消えた。切ないピアノに甘いヴァイブが絡むと、スウィングして粘るベースライン。恍惚(こうこつ)。秋の夜。

2008年09月28日
●シリーズ「結婚前夜」 【1】 独身派に逆風
会社の同期のうち、半数近くが結婚している。僕は独身派の幹部。27歳。「まだ早いよ」と息巻く仲間と「死ね死ね団」を結成し、既婚派の不自由を案じては、自由を謳歌(おうか)してきた。ところが先日、情勢が一転した。
「どっから聞いたんですか。ふぅ、そうです。来春結婚します」。彼女と別れたことになっていたK辺が、知らぬ間によりを戻しており、結婚を予定していることが明らかになった。某筋による告発で、スクープだった。
独身派に衝撃が走った。派閥内でも年少組のK辺が、水面下で結婚準備を進めていたことに、年長組は焦りの色を隠せない。彼の寝返りによって、両派の勢力が拮抗(きっこう)することになるからだ。今後、だれか一人でも後に続くことがあれば、独身派は下野する。「残りもの」のレッテルさえ張られかねない事態に、派閥の幹部といえども浮き足だった。
同じ27歳の幹部Y田は、あっさり思想を曲げた。「これは仕事しよる場合ちゃうぞ」。突然、旧友の女子と蜜月を交わし始めるなど、なりふりかまわず婚活(結婚活動)に汗を流している。独身至上主義の急先鋒として派閥を引っ張ってきた功労者だっただけに、仲間は立ちすくむしかなかった。
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シリーズ「結婚前夜」では、適齢期を取り巻く話題にスポットを当て、独身の立場から結婚とは何かを考える。





